和歌山大学教職大学院 教授 豊田充崇
水谷先生、岩田先生の活用事例には、「ライブ感」「一体感」「緊張感」という特徴的なキーワードが記述されています。これらはすべての生
徒目線で述べられたものであり、理解が不十分な生徒に少しでもわかりやすく伝えたいという配慮がうかがえます。多くの先生が実物投影機は
「便利だ、有効だ」と記述していますが、それは指導者の立場で語る場合がほとんどです。水谷先生と岩田先生は、生徒の立場になって、どう
すれば生徒が学びやすいのか、もしくは他者との対話をいかに促せるかを絶えず念頭に置いているのだと思われます。実物投影機を、「便利な
ツール」だけではなく、「生徒の学びを充実させるツール」として捉えているのです。
岩田先生の理科の授業では、観察のツールとして実物投影機を用いていますが、高い解像度(1,300 万画素) の実物投影機で撮影された画像は、
実際の植物を肉眼で眺めるだけでは見えてこなかった詳細な部分もタブレットにて確認できます。「見えているものを大きくする」だけではな
く、「見えないものが見えてくる」のです。このような画像から、また新たな発見( 例えば、道端の小さな植物にもこんな緻密な構造があった
のか) が得られ、それは生徒たちの好奇心を揺さぶることにもなるはずです。
実物投影機は、生徒の理解を高め、授業への参画を促し、生徒同士の対話を仕掛けるツールとしている点がお二人の先生方に共通しています。
日々忙しい先生方に、今以上の負担をかけるようなICT は根付かないと思いますが、これらの実物投影機の使い方は、授業の工夫・改善にかけ
る先生方の心意気ひとつで実現できる好事例と言えるでしょう。